電話. 042-514-8530
受付時間:(土日祝除く)9:00~18:00

自著を語る~『四訂版 習うより慣れろの市町村財政分析』


2017年4月10日に、自治体研究社より「四訂版 習うより慣れろの市町村財政分析」が発売されました。筆者は、私たちの研究所の代表理事をつとめます大和田一紘と主任研究員の石山雄貴です。発売にあたり、この本の読みどころやこの本を基にした財政学習運動について、代表理事の大和田へインタビューをしました。

── 三訂版からわずか1年半で四訂版が出されました。とても早い改訂でした。この間、財政学習運動に何か変化があったのでしょうか。

大和田 財政分析をする人の層が厚くなるとともに、その裾野が広がってきたのだと思います。2017年春に「白書の集い」(多摩住民自治研究所主催)には、立川市、小平市、笛吹市、守口市の財政白書を作ったメンバーが参加しました。どの自治体も三訂版が発売された後に白書を作った自治体であり、財政白書作りが広がっていることがわかります。

どの市民財政白書も素晴らしいのですが、中でも画期的だったのは守口市の市民財政白書でした。この白書は、財政に関するグラフを作成し、市民の目線からその解説するような一般的な白書ではありません。市民の視点からジャーナリスティックに守口市財政に切り込んでいくような白書でした。そういった新しい市民財政白書の形態が出てきたことに、財政白書の深まりを感じます。

── 守口市の白書は多くの方に注目されていますね。

大和田 はい。守口市の白書は、多くの人の注目を集め、様々な取材を受けただけではなく、自治体学校(自治体問題研究所主催)ではわずか1日で100冊を売り上げていました。財政分析が必要とされていることがわかります。財政を分析するのは、決して特殊な人だけではなく、敷居が下がってきたのだと思います。

── なるほど。財政分析の担い手が広がってきているのですね。

大和田 他にも、これからなのですが、埼玉県三芳町で中学生に今度財政を教える機会があります。(注1)私は予てからライフスタイルごとの地方財政のカリキュラムを作る必要性について述べてきましたが、中学生向けに講座をすることは初めての経験です。中学生が生まれた14、5年前からの人口や財政の推移を元に10年後どうなっていくのかを一緒に考える講座にしたいと構想しています。中学生が自分のまちの財政計画が立てられるのだから、大人たちつまり市民も行政もしっかりしないといけないというようになればいいですね。それと中学生が財政を学ぶことは、18歳選挙権を契機に高まっている主権者教育につながっていくとも思います。今から楽しみです。

── 三訂版から四訂版への大きな変化はなんでしょうか。

大和田 まず、グラフや表などのデータを新しくし、図も見やすくしました。他にも内容を一部変更しました。普段から私が講師を務める財政講座でこの本を使ってきたのですが、グラフなどの講座資料とその解説を本の中に入れ、講座を受けた人には復習がしやすいように、もちろん講座を受けていない人でもわかりやすく理解できるようにしました。

その他にも、交付税のトップランナー方式に触れたり、健全化判断比率に触れたりと、できるだけ今の財政分析に必要なテーマを盛り込みました。ただし、四訂版を出した後に公表された平成27年度版の財政状況資料集ではこれまでの財政状況資料集から大幅に改定されました。そのことに触れることができなかったのは残念ではありますね。

── 加筆したとことで言えば、類似団体比較カードの解説が増えていますね。

大和田 類似団体平均との比較は、経年的に財政を見ていくことと並んで大事な分析手法だと考えています。類似団体比較カードは総務省のHP上では公開されていませんが、全国的に公開が進んでいる財政資料です。ですので、改訂にあたり是非とも入れたいテーマの一つでした。類似団体比較カードには、収支状況、歳入、歳出(目的別・性質別)に関して当該団体の人口一人当たりの額と類似団体平均の人口一人当たりの額等が掲載されており、これを見れば類似団体平均とわがまちの財政とで、どの点が異なるのかをつかむことができます。

また、類似団体と比較することで財政の数字にリアリティを持つことができると思います。例えば、高齢化に関してわがまちの数字は30%だったとする。それだけでは、それ以上の意味はわかりません。ただし、似た人口規模や産業構造を持つ自治体の数字が25%だったらどうでしょうか。30%ということが数字以上の意味を持ちます。財政も同じです。比べることによって初めてリアリティのある数字になってきます。

── 類似団体との比較は財政状況資料集でもされており、大事な分析手法ですよね。

大和田 そうですね。財政状況資料集は、決算カードを並ぶ大事な資料で読みこなしていく必要があります。ただ、財政状況資料集における類似団体との比較は順位づけをしているという点で注意が必要だと思います。順位づけをすると同団体内1位になることがどうしてもいいと思いがちです。公債費でしたら、確かに今の時代、少ないことに越したことはありません。ただ他の科目、例えば人件費はその割合が同団体内1位になることが、直ちにいいとは限りません。財政力指数もそうです。財政力指数が高くなり、同団体内1位になればいいまちづくりをしているかと言われたらそうではないでしょう。例えると、今、医者が不足していると言われていますね。地方で高齢化社会がきたところで、地域に根ざした医者が求められています。一方で専門化し、高度な技術を持つ医者もいます。どちらの医者が優れているかと言われたら、一概には言えません。財政力指数もそうです。高い自治体と低い自治体どちらがいいのかは一概には言えません。けれど、私たちは順位をつけることで錯覚にとらわれてしまいがちです。財政力指数が低かったら能力まで低いと考えがちです。むしろ、順位ではなく、違いから何を考えるかの方が大事です。

── 健全化判断比率については、前回も触れていましたが、今回は解説を増やしていますね。

大和田 財政状況資料集の目玉は、グラフを用いた健全化判断比率の公表です。でも、財政状況資料集をただ眺めるだけで健全化判断比率が理解できるようになるかと言えばそうでないでしょう。健全化判断比率は公表されるようになってから、その計算式が変わったりして、とてもやっかいだからです。特に将来負担比率や実質公債費比率は、イエローカード・レッドカードが出される基準もゆるく、また計算式で控除される額も多く、実態をそのまま表さない比率です。そのため、とてもわかりにくいのです。私が講師を務めている財政分析講座でもこの部分に入ると皆さん、とても難しそうな顔をしています。しかし、健全化判断比率は広報などでの公表が義務付けられており、財政計画の達成基準にされたりと、よく使われる財政指標ですので、ある程度の理解が必要です。今回は、比率のカラクリや本当に見て欲しい部分について解説を加えたつもりです。是非読んでいただいて、理解を深めて欲しいです。ただ、これも「慣れるより慣れろ」の世界です。なによりも経年的に見てグラフを作ったり、類似団体と比較をし、色々と考えることで、親しんでもらえたらいいかなと思います。

── 四訂版では新しく合併算定替についても触れていますね。

大和田 合併算定替の問題は以前からありましたし私自身も考えてきました。本当は三訂版にも入れたかったテーマです。平成の大合併から10年が経ち、合併算定替の段階的縮減が始まりました。そのことでこの10年間でどの程度合併算定替による普通交付税額がわがまちに入ってきたのか、今度どういったスケジュールで本来の交付税交付額になっていくかを掴みたいというニーズがありました。この本では解説とともに新しい分析表も加えました。私自身も合併の財政への影響は強い問題意識を持っていますし、この問題は全国的に共有しないといけない問題だと考えています。ただ、段階的縮減が始まったばかりで、影響はまだ少ないです。この本でも平成28年のデータまでしか載せることはできませんでしたし、吸収合併のケース、大都市のケースなども載せることができませんでした。これらは今後の課題として、また改訂版を出す機会があったら是非入れておきたいテーマです。

── 今回は今まで以上に様々な財政資料を載せていますね。

大和田 そうですね。決算カード、類似団体比較カード、財政状況資料集のほか予算書(一部)や総括表、交付税算定台帳を掲載したり、決算統計の目次も丁寧に入れました。こういうことができるようになったのもHP上で財政情報の公表が進んだことが背景にあります。例えば、長野県では市町村の類似団体比較カードをHP上で公表していますし、千葉県東金市では総括表を公表しています。その他にも、熊本県では市町村の地方交付税算定台帳を公表しています。自治体によってまちまちですが、確実に進んでいます。でもまだまだです。他の自治体では気軽に取れる資料もある自治体に行けば開示請求をしないと手に入れることができないこともよくあります。開示請求していたら手に入るのは1ヶ月後になることもありますよね。その間に、財政への熱が冷めてしまいますし、なんでこの資料を欲していたのかを忘れてしまうこともありますよね。時間に余裕があったら、各自治体の財政状況の公表状況の総チェックを研究所のHP上で発表できたらいいですね。

本の中には、長野県信濃町の広報を入れました。信濃町の広報は決算を丁寧に載せていますし、決算統計もHP上で公表しています。こういう広報は珍しいので一度訪ねに行ったことがあります。そうしたら、私たちは当たり前のことをしているという雰囲気でした。財政の公表は当たり前のことだと毅然とした態度だった。私はこういう雰囲気はニセコ町以来だと思います。

── ニセコ町は、予算説明書で有名ですね。

大和田 ニセコ町はまちづくり基本条例を初めて作ったまちです。これは自治基本条例と議会基本条例、この2つを合わせたもの性格を持っています。ぜひまちづくりや行政のあり方として参考にしてほしいまちです。この基本条例では情報へアクセスする権利、情報共有の原則、行政の説明責任、住民参加の原則という4つの基本原則を持っており、情報開示をちゃんと位置付けています。自治基本条例やまちづくり基本条例で情報開示を位置付けている自治体は多くあるのですが、それをちゃんと実行している自治体は少ないです。ニセコ町では、いい広報を作ったり、まちづくり町民講座や懇談会、予算策定過程の公表をしたりしていますが、なかでも有名なのが 『もっと知りたいことしの仕事』(予算説明書)です。これは、中学生でもわかるように工夫されて作られいます。財政はとっつきにくいし、難しい。だから中学生でもわかるようにつくらないと伝わらないわけです。これは、守口市の財政白書にも通じていますね。財政はまちづくりの基本です。これ抜きになると、どんないい施策もアイデアも空論になってしまいます。

── では、最後に読者にメッセージをお願いします。

大和田 財政分析もさらに深化してきています。また、現在行われている公共施設再編計画や地方創生に関連する施策は全て財政とセットで動いています。そのため、わがまちの数字を如何に語ることができるかが重要になってきています。そのきっかけとしてこの本を使って頂けたら嬉しいです。

── 本日はありがとうございました。

大和田 ありがとうございました。

注1)2017年11月に玉県三芳町三芳中学校にて実施しましたが、インタビュー当時(2017年9月)には未実施でした。

四訂版 習うより慣れろの市町村財政分析著 大和田一紘・石山雄貴四訂版 習うより慣れろの市町村財政分析

市町村決算カードなどを用いて財政を分析する方法をわかりやすく解説。図表を駆使した市町村財政分析の決定版。(定価2,500円+税)

購入希望の方は、本研究所までご連絡ください。

  • Tel&Fax:042-514-8530
  • 携帯:090-3099-4334(担当:小松)
  • メール:info@lpf-design.org

出版社のHP(自治体問題研究所)や、Amazonからもご購入いただけます。